上野リチ展と伝道院
京都へ行く。先々週行ったばかりだけれど、戴いたチケットを無駄にはしたくないしという言い訳で近美の上野リチ展へ。
高架から見える洛西口あたりの田んぼはすっかり枯れていた。西山にかかる薄灰色の雲。京都の冬はくすんだ空。もしくは東山のすこんと抜けるような水色の空。頭の中の京都の冬は両極端。振り返ると反対側の窓から京都タワーが見えていた。
上野リチ展。出鼻から山鉾のスケッチがある。これほど京都の工芸分野に貢献し、かつ民藝とも関わりの深い氏のことを私はこの展覧会が催されるまで知らなかった。サイニーで検索してみると、図書は二件しかヒットしなかった。一つは近美、一つは氏が創設した美術学校が出版したもので一般書の類はなく、今月下旬に青幻舎が出すところらしい。そんな人物がこうして取り上げられるのは、女性、そして民藝への関心が高まっている(東京の方では民藝展やってるし)からなのかなと思う。むしろ大戦前から男性と同等の(その実は分からないけれど)教育を受け、京都とウィーンの二拠点で仕事をし、第二次大戦中も日本にいながら働き続けたような女性の一般書が今までなかった方が不自然というか。自分の目に見えているものの偏り、自分の目に見えていない存在について考える。世間の注目が集まればこうして見えていなかったものが提示されるというのであれば、声を上げることの効用というのは確かにあると思う。
1900年前後ウィーンで日本の美術工芸が参照されていたことを知る。ウィーン工房、ヨーゼフ・ホフマンのテキスタイル「滝」「松葉」など日本の浴衣の文様にあっても違和感のないぐらいだった。渋いけれどどこか可愛らしい。
リチ氏本人のテキスタイルはとにかくかわいかった。モチーフは果物、花、小鳥。京都をモチーフにしたプリントデザインも野菜や魚や反物を売っている店子が小さくかわいくパターン化されていて、なんというか現実をベースにしながら時代とは無縁なところに存在しているのが魅力的だった。会場の見出しに「ファンタジー」という単語が何度も使われていたのだけれど、ファンタジーとはそういうことなのかもしれないと思った。
特に最後のレストラン「アクトレス」の壁画が印象的だった。素材がアルミ箔、画材がポスターカラー、そこに素朴な鳥や花のパターンが描かれている。なのに安っぽくないのは琳派の屏風や襖絵を参照したり、自分の理解の及ばないところで細心の注意が払われていて、基礎がしっかりしているからなのだろうなと思う。ウェスティン都の旧貴賓室のクロスも同じぐらい印象的だった。豪奢なジャカード織に素朴なテキスタイルがなぜか合う。すごく合う。かわいいと思うと同時に、いくら氏が京都における工芸の第一人者とはいえ、貴賓室という特別な場所に、あのテキスタイルをジャカード織にして採用するところが京都らしいと思った。先進的で挑戦的。
通常展も見る。上野伊三郎氏のスター食堂のレタリングが飾ってあった。美術館で鑑賞するような作品の人物が作ったものがさらっと街中に潜んでいるのが京都という街だったなと思う。スター食堂が出町にもあったことを知る。
山崎書店へ行くも開店までに時間があったので卯sagiの一歩でランチ。前を何度か通ったことはあるも、スピリチュアル系だろうか(京都は適当に入るとそういうことがある。それでサ…クの集まり場みたいなところに足を踏み入れたことが二度ほどある。一緒にするなという話だけれども)と入ったことはなかったのだけれど、寒すぎて他に足を伸ばすのが大変だったので入る。結果的に食べ物もすべて手作りで美味しかったし、岡崎の一等地のお屋敷ってこんな感じなのかと知ることができて良かった。
向かいの好日居さんも営業されているようでほっとする。時間が合わず行けなかったのでまた今度。
のち山崎書店でアートブック展。面白かった。書店さんも古書〜って感じの古書と昭和平成期の一般書が絶妙な按配でセレクトされていて面白かった。
卯sagiの一歩も好日居も山崎書店もすべて個性的なお店だ。公共施設が並び行政のまちづくりの手が入りお店も整然とした感じが多い岡崎の地でこの3つのお店があるエリアだけ少し空気が違うのが面白い。
市バスで浄土寺へ。南禅寺・永観堂行きのバスはめちゃくちゃ混んでいて懐かしくもあったがげんなりする。子どもをつれて市バスはのれないなと思う。降車時に一日乗車券を買おうと600円を差し出すと「700円になりましたよ」と言われ思わず「えっそうなんですか!」と言ってしまう。市外の人間の密度を抑えたい場所といえばここになるよなと納得するも500円だった頃を思い出して切なくなる。京都市へのお布施だと思うことにする。
ホホホ座へ。1時間ぐらいいた気がする。読みたい本が増える。「おみやげ話 京都を歩く」「よくわかる出版流通の実務」「日本の手仕事カレンダー」を買う。
すぐ近くの青おにぎり屋へ行くも20分待ちだったのでタイミングが合わずということでUターン。swimpond coffeeでコーヒーをテイクアウト。コーヒー豆の袋も缶もカップもすべて西淑さんのイラストとデザインでかわいかった。入口のシールも西さんが貼ってくれたと店主さんが嬉しそうに話されていた。カップを手で包んで再び市バスへ。
伝道院に着く。ずっと中に入りたかった場所だし公開することはないのではと聞いていたのでかなり嬉しい。モダン建築の京都展で見た伊東忠太のスケッチに溢れていたユーモアがそのまま流し込まれたような建築だった。鈴蘭の花のような照明のガラスは西洋風、その土台は蓮の花を象ったようなパターンや下がり擬宝珠がついていたり日本風。それらは円環になって終わることのない文様になっている。床の寄木貼も種類は違えどどこも幾何学的かつ連続性がありアラベスクっぽいなと思った。イスラーム風。仏間の欄間の三角が連なり六角形になる文様は曼荼羅のようだった。西洋はともかく日本風とイスラム風は分かち難く、仏教は流れを変えながら西からやってきたのだと教えてくれるような建築だった。
西本願寺で遠くから阿弥陀様を拝み、以前見かけたボロボロの建物がワイフアンドハズバンドの焙煎所かつ雑貨店になっていることに気づき寄る。本作りに使えそうなアンティークのボタンを買う。
今日も盛りだくさんで帰宅がギリギリになり、しかしおみやげを頼まれていたので京都駅のおみやげ広場的なところで大極殿のカステラを爆速で選択する。NHKの大戦の記録を見ながら食べる。
もうこんな時間だ。その日のうちに振り返るのは大変だけれども、書いておかないと何もかも忘れてしまうので書いておく。今日の自分おつかれさま。
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