2021年読めて良かった本10冊

昨日解禁されたシトーンズのライブ音源聴きながらこの記事を書いています。ハピネス。


明日から出かけるし本を読む暇もないだろうということで今日振り返ります。自分の考え方や書き方に影響を与えたという観点で選んでみました。といっても時間がないので、過去の記事を引用するにとどめます。


1.グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』

今年読んだ中でいちばん読めて良かったと思った小説。この本の刊行に際したトークライブでいしいしんじさんが「今まで読んだ何とも似てない」というようなことを仰っていたけれど本当にそうだと思う。

京都が舞台の小説ってよく外側/内側から見た京都って視点で語られると思うのだけど、それを軽々と飛び越えていくというか、そもそも外側内側って何ぞという問いを投げかけられる感じ。

あらゆる問いを含んでいるのが小説だと私は思っていて、そういう意味でこれは充分小説なのだけれど、それを「そんな話は小説にはならないだろう」と言ってのけているのもぐっときた。これもまた小説とは何ぞという問いなのよね。


2.氷室冴子『いっぱしの女』

『いっぱしの女』を読み終える。思ったり考えたりしたことは色々あるけれど、やはり私は氷室さんの考えや周囲に対する姿勢そのもの、そしてそれを言葉に表すときの感覚がとても好きだということに尽きる(ライターが起こしたであろう巻末のインタビューがあまりにも彼女の言葉遣いとかけ離れていて、悪くはないのだけれど、彼女の思考は彼女の言葉で語られるからこそ好きなのだなあと思った)。

読みはじめる前(フォロワーさんの引用を読む前)は勝手なイメージで、それこそ冒頭の記者のように、吉屋信子氏をはじめとする少女小説に関する思い出や思い入れが抒情的な文体でつづられているのかと思っていた。しかし実際、文中に登場するのはスピルバーグの映画や新聞のコラムなどで、それらを通して浮かび上がる彼女の思考は無垢でありながら鋭く、現在を自身の目でしっかりと捉えているその様に親しみを覚えずにはいられなかった。

今は『さようならアルルカン/白い少女たち』を読んでいる。まだ表題作しか読めていないけれど、女子校が舞台であること、少女がとある一人の少女に対して視線を送り続けるストーリー、少女が少女に惹かれ自身の分身だと思う構造や、比喩を使った情感たっぷりの文体など物語を縁取るモチーフは少女小説的要素を引き継ぎながらも、真ん中には『いっぱしの女』から窺い知れる彼女自身の無垢さ鋭さがどっしりと構えて根を張っている。彼女の小説も私は大好きだ。

この本ほんとに好きすぎて蓼食う本の虫さんで記事を書かせていただきました。


3.高橋幸『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』

あああこれ感想書いてなかったのか~。今までいかに自分がフェミニズム・フェミニストをイメージで捉えていたのか思い知らされた一冊。この本きっかけで今年はフェミニズムやジェンダー周りの本や記事をぽろぽろ読みました。現代思想の恋愛特集も面白かったです。


4.朝井リョウ『正欲』

重いパンチを繰り出し続けるような文章の連なりに自身の想像力の無さを突きつけられる。そのパンチのラインは鋭く、狡猾さや驕りからは遠く、愛に裏打ちされていて、そういう人間という生き物に正対している朝井さんの姿勢が好きだなあと思う。

読み終える前と後で少し世界の見え方が変わっていて、だから小説を読むのが好きなんだよなあと、全然ハッピーな話じゃないんだけど幸福な体験だと思った。

『スター』もめちゃくちゃ面白かったしかなり影響受けました。


5.宮田 眞砂『夢の国から目覚めても』

様々なキャラのうち誰かのどこかに共感すること、それはときに他の誰かのどこかを傷つけることと同義になる。百合をめぐる現実を描きながらも読後は多幸感に包まれます。肯定する力の強さを知らせてくれる。私もこの物語を肯定したいと思う。

自分が作品を好きになる基準において、真摯さを感じられるかどうかということがわりと大きなウエイトを占めていることを実感しました。そして「夢の国から目覚めても」はとても真摯な作品だと思いました。

ちなみにこれ読んだのちょうど百合の日だったのよ。なんたる偶然。


6.村上雅郁『りぼんちゃん』

良い小説としか形容できないのが悲しくなるぐらい、ほんとに良い小説だった。理緒を分かりたい、守りたいという朱理の切実で誠実な言動に後半からずっと泣いていた。言葉(物語と対話)の力を信じるという一貫した姿勢にも心を揺さぶられっぱなしでした。心にとめておきたいフレーズが数ページおきにでてきて付箋だらけになった。最初は、作者さんは少女小説(戦前)をお読みなのかなとか、「静謐」って放浪息子にも出てきたなあ(かなり印象的で大好きなシーン)とか最初のうちは考えてたんだけど、読んでるうちにそんなのどうでもよくなった。久しぶりに、構成とかキャラとか、背景とか共通点とか、周辺に考えが至らないまま、劇中に没入して読んだ小説でした。そういう作品が自分にとっては間違いなくいい作品だと思うし、再読してそういう周辺を読んでいく楽しみが残されているのも嬉しい。今年読んだ小説の中のベスト10に入ると思う。幸福な読書体験だった。


7.佐原ひかり『ブラザーズ・ブラジャー』

実生活で行き詰っていることに手に取った本がヒントを与えてくれるという体験を久しぶりにした。違和感を呑み込みやんわりと人と付き合い続けることを許さない姿勢にすごく元気づけられました。

人と人は完全には分かりあえないこと前提で、それでも人と人のあいだに希望を見出しているところも自分にはしっくりきた。やさしくないけどやさしいというか、やさしくないけどやさしいというか。そのバランスが絶妙でリアルですごく今っぽい。

一面的に捉えて決めつけないでというメッセージが作中にでてくるのだけど、このキャラはこう動くだろう、ストーリーはこう動いていくだろうとこっちが決めてかかっていることを全部裏切っていく展開にもそういうメッセージが滲んでてすごく良かった。キャラをストーリーにおける立ち位置とかにあてはめず人間のまま描こうとしてる感じがして。


8.好井裕明『他者を感じる社会学』

差別を考える基本に始まり、部落、ジェンダー、性的志向、障害、民族など身の回りの差別について考えていく一冊なのだけれど、差別を断ずるのではなく、差別を考えようという一貫したメッセージにとてもほっとした。

百合界隈にいると、ジェンダーや性的志向についてのツイートをよく目にするし、争いが起こっているのもしばしば見かけるのだけれど、とあるツイートを見たとき、その人が怒っている理由が分からないことがあって。もちろん差別はいけないししたくないし、同性愛に対する偏見がなくってほしいと思っているけれども、もしかしたら自分も自分の理解の及ばないところで差別を助長するようなツイートをしているかも、と思うと正直怖く息苦しく、そういった話題について何か思ったことがあってもツイートするのはやめておこうと思っていたわけです。

けれども「誰もが差別する可能性を持っているし、その可能性が差別しない可能性に変化する」という主張を読んで、あ~間違って怒られて当たり前だし、そこから考えていくことで自分事として捉えられるようになっていくんだよな~と思い、とても安心した。

これからは怒っている人がいたらなぜ怒っているのか考えたいし、思ったことがあれば主張したい(無理して焚きつける必要はないけど…そもそもツイッター議論に向いていないし…)。一方、自分も他者に対して、あの人はああ言ってたから理解のない人だと決めつけず、自分と同じく考え中なのだと思うようにしたい。そうすることがよりよい日常生活につながると思っている。


9.酒井順子『百年の女』

『婦人公論』百年分のバックナンバーを紐解く本。紙面の生き生きとした雰囲気を淡々と伝えてくれる酒井さんの語り口がとても良かった。かつて女はここまで人間として扱われていなかったのかと驚いたけれどもそれ以上に驚いたのが、女性の生きる環境は時代の流れに沿って良くなっていったのではない、時の政権や時代の空気によって逆行してしまうこともあるということだった。

為政者は子を増やせ、子を調整せよ、どちらの大義名分にも「女性解放」を使った。正しさなんてその時代によって変わる。自分が思っている「幸せ」は本当に「幸せ」なのだろうか、大きなものの使う言葉に踊らされている結果ではなかろうかと少し怖くなる。

一方「結婚はまだ?」という親世代の気持ちも少し分かった。そんな時代を生きてきたらそう思って当たり前だよなと。言う方だって結婚=幸せなんて思っていない。その上であえて言っていることの意味を知った。

大正から平成までの女性たちの生き方を読んで、彼女たちの積み重ねがあるから、私は私の幸せが本当の幸せかを考えて判断することができるのだなあと思った。そしてその幸せを追求する権利も持たせてもらえていると。彼女たちに感謝をしつつ、時代が逆行しないよう願いを込めて。#genderequality


10.小川糸『とわの庭』

圧倒的な生の肯定で終わり、この話を大好きだと思う自分がいた。やはり私は物語に希望を求めているのだと思う。これは誰にも何にも侵せない部分だ。なにかを否定しなくても、なにかを対立させなくても、魅力的で美しい物語は綴れるのだということをこの物語は教えてくれて、そのこと自体がとてつもない希望だった。

いろいろ考えたけれど、今の自分にはきちんとした文章で書けないからとりあえず言葉の断片を書き殴った。再読はあまりしない人間だけれど、この物語は子どもに対して何か思うことがあったら読み返したい。ずっと手元に置いておきたい本というのはこういうものなのだなと思う。

何をどうしたってエゴなのだから私は子どもを、もっといえば周りの大好きな人たちを自分のやり方で愛したいと思った。


11.池田彩乃『観光記』

言葉は私のものでない。誰のものでもない。だから自分以外の何かと一つになれるときがある。そのことに救われることがある。阪急電車の中でページをいったりきたりしながらそんなことを考えていた。読めば文章の型から自由になれる。読み終わってもずっとリュックの中に入れているだろうと思う。



なんか11冊あったようですがあまり気にしないでください。

あと今年は本の雑誌を読むようになったのが読書生活に大きな影響を与えたな~と思います。読了本の冊数は去年とそんなに変わらないけれど、書評を読むことで本と本の関係や道筋が去年より分かるようになって読書の楽しみが増えました。ノンフィクションの書評なんかこんな人がこの世にいるのか!と本そのものを読まなくても楽しい(そして読みたくなる)。あと単純に本屋や書棚の話面白いよねえという。

そして本の雑誌を読もうと思ったのはインスタのおかげなので(世の中にはすごい読書家が沢山いる!)、読書(とその他いろいろ)のインスタはじめて良かったです。そんな2021年でした。


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