2023.09.25 11:38さみしい夜にはペンを持て「さみしい夜にはペンを持て」読み終える。日記を書くことの効用がストーリーにのせて描かれる。これが分かりやすいだけでなく心にじーんと響くおはなしで、子どもが思春期になったら手渡したいなと思ったりした。苦しいときはやがて過ぎる。そのひとことを分解して、具に描きなおして目の前に差し出してくれるような本。読みながら思ったのは、このウェブ上の日記も手帳につけている日記もほぼ毎日書いているけれども、早く書かな...
2023.08.09 14:28高橋久美子『いっぴき』くみこんの『いっぴき』読み終える。時を経るごとにぐんぐん上手くなっていく文章。最後の書き下ろしの部分がもっとも情景やくみこんの心情が伝わってきて、上達することは型にはまることではないのだなと一つの答えをみて安心したりする。とはいえ前半部分も面白く、どこか懐かしく、それはやはりくみこんご自身(とご家族)がしなやかで自由で魅力的な方だからだなあと思う。町が人をつくるというようなフレーズが出てくるけれど...
2023.07.03 13:45どうする家康昨日の回の余韻に浸って今日を過ごしていた。とはいえ話は予定通りというか、そうなるしかないよなあという感じで観ていた。鎌倉殿が、「仕方ない」といいながら殺生を行い、自身は綺麗なまま、さらにはその殺しによって視聴者の感動を誘う主人公(これは組!のかっちゃんとトシなのだけど)に対するアンチテーゼ(仕方なくても悪いことは悪いし綺麗なわけないし報いは受けるよね)だったので、「仕方ない」で涙を誘うことは回避す...
2023.06.05 14:11五島諭『緑の祠』デニーズでよい小説を読んだあと一人薄暮の橋渡りきる五島諭さんの歌集『緑の祠』。上述のようなそのままの情景が読まれた歌が多くて、ああいいなあって思う。よい小説は「よい小説」。書名でないことで歌中の主人公の個性が薄れて、情景そのものが立ち上がってくる。自身の心情に切り込まない。誰かへ宛てた強い思いもない。自分も情景の一部にして、情景を詠む。そして私はよい小説を読んだあとの、しっとりとしたよい時間の、あ...
2023.02.26 01:14穂村弘編『短歌のガチャポン』穂村弘さん編『短歌のガチャポン』。色は違えど、こういうことも短歌にしていいんだという驚きが潜む歌が百首。短歌の自由さを味わいました。歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah / 五島諭収録されていた中でいちばん好きだった歌。歩道橋の上で「自分yeah」と3回も言っちゃう全能感。けれども西日から滲む哀愁。空回りかもしれないと頭の片隅で思いながら、自分を肯定する。そんな揺...
2023.02.17 13:17飯村周平『HSPブームの功罪を問う』先日読んだ『HSPブームの功罪を問う』。広く捉えれば『ラベリングの功罪を問う』ともとれる内容で面白かったです。他者と比べて自身が特別だと思いたい。才能があると思いたい。それを活かしたい。自身をストーリーづけたい。他者に自身を説明されたい。ともすれば自己顕示欲のひとことでまとめてしまわれそうな人間の様々な欲の流れと社会の結びつきが章を追うごとにクリアになっていきます。HSPだと思う。→名前がつくこと...
2023.01.17 00:38池田彩乃『別の星から降ってきたみたいだ』池田彩乃さんの『星渡りの便り 別星号』に入っていた『別の星から降ってきたみたいだ』読み終える。目に映る情景と心象がそのまま切り取られて、紙のうえに丁寧に貼り付けられている。なんて嘘がないのだろうと思った。過去から届くひかりは別の星から降ってきたひかりだった。中高生の頃、個人サイトに詩と日記のあわいのようなものを書いていた。ガラケーで写真を撮って貼り付けていた。そのころの「書くこととは」とか考えずに...
2022.12.30 16:232022年に読めてよかった本10冊2022年に読めてよかった本10冊について書こうと思います。といっても過去に書いた記事の再掲かつ下半期ほとんど本を読めなかったので上半期とあまり変わりません。以下ベスト10(読んだ順)です。1. 永井玲衣「水中の哲学者たち」2. 若松英輔「本を読めなくなった人のための読書論」3. 島田潤一郎「古くてあたらしい仕事」4. 山本 善行,清水 裕也「漱石全集を買った日」5. 池田彩乃「発光」6. 年森瑛...
2022.12.18 15:09鎌倉殿の13人(最終回)終わってしまった鎌倉殿。終わって2時間ほど経つけれども、言語化できないししたくないという、本当にすごいものにであったときの幸福な感覚がまだじわじわ続いている。忘れたくないことだけ書き殴っておこうと思う。小四郎は自らが手を下した者たちの名前を真面目に覚えていた。その真面目さゆえ、生きながらえる薬を政子から与えてもらえないという報いを受ける。それは小四郎に手を下された者たちが政子を通して行った報いでも...
2022.12.14 14:11赤染晶子『じゃむパンの日』赤染晶子さんの『じゃむパンの日』読み終える。しみじみと良い本だった。もっと赤染さんのことを知りたい……どうすれば……と途方に暮れている。最初の頃の幻想まじりの勢いの良い文章も、その味わいを残しつつクリーンに仕上げられた最後の方の文章も、人の心根に訴えてくるという点で変わりはない。人情の話だよこれは。そして岸本佐知子さんとの交換日記のおかしみ!声を出して笑った。以下は北海道から京都へ戻ってきた赤染さ...
2022.12.12 14:38鎌倉殿の13人(第47回)昨日の鎌倉殿も素晴らしかった。「自分の想像を超えたところで息子が自立する瞬間」「自分の想像を超えたところで姉が手を差し伸べる瞬間」つまり一人で政治をまわしてきた義時に心から頼れる人間が戻ってくる瞬間、久しぶりに人と心を通わせた瞬間をかの有名な演説の場面に据える采配。人と人が分かり合える瞬間というのは想像を超えたところにあり、刹那的で脆くほとんど幻想だ。だからこそ尊い。そして分かり合えたことに気づく...
2022.12.10 14:27坂口恭平『継続するコツ』坂口恭平さんの『継続するコツ』読み終える。来年はいくつか応募する公募を決めて、他は好きなことだけしようとこのあいだ書いたけれども、公募も決めず本当に好きなことだけしようと読んで思った。好きなことだけしたらいい、とはいえある程度やることは決めておかないと何も進まないぞ、のあいだで揺れていて、いつもその匙加減に足をとられていた。作中で坂口さんはまったく、100%、好きなことだけしたらいいと語っていた。...