2020年印象に残った本10冊

ちょっと先の振り返り記事がお粗末すぎたので、未来の自分のためにも本に絞って振り返りをしておこうと思いこの記事を書いています。でも今年出会った本はどれもよくて、正直好き嫌いを述べ難いので、ベスト10!ではなく印象に残ったものを読んだ順に挙げていこうと思います。個々の感想はツイートをまとめたものです。(一から書くの大変なので…感想はつぶやいておくものだなと思った…まじで……)


1.凪良ゆう『流浪の月』

先の記事に書いている通り今年は凪良さんのBL以外の作品をすべて読みました。それらの特徴を“自分の幸せは自分で決めるということと、その難しさ。そしてきっぱりさせたいけれどそうはいかないグレーな現実を、グレーなまま描いている。”と挙げていますが、その特徴が物語と馴染んでいちばん自然な形で差し出されているのが『流浪の月』だと思います。なのでこれを挙げたけれど、どの作品も好きでした。「滅びの前の」はテーマが剥き出しになっていて、良かったし、良いんだけれど……それよりも「わたしの美しい庭」「神様のビオトープ」「すみれ荘ファミリア」が好きかな。この3つが次点で並んでいます。


2.阿波野巧也『ビギナーズラック』

暖房をつければ一回だけ鳴った風鈴 しばらくひとと会っていない
ぼくの手にiPhoneだけが明るくて自分の身体で歩いてゆける

京都の特別な固有名詞を出すわけでない、すぐそばにある言葉の選びと並びなのに、普遍的な懐かしさを宿しながら京都の匂いもする(懐かしいから京都の匂いがするのかなあ)。これはずっと手元に置いておく本だと一ページ目を読んだ瞬間に思いました。『食器と食パンとペン』や東さんや穂村さんのエッセイは持っているのですが、個人の歌集を買ったのは初めてかもしれない。京都のことを書いていきたい、短歌も詠んでいきたいと思っている自分の指針になる一冊でした。


3.重里徹也 助川幸逸郎『平成の文学とはなんだったのか』

monokakiのこちらの連載を読み、自分ベーシックな文学作品を全然読めていないな……と思い、でも一から作品そのものを全部読んでいくのは大変だし、大まかな見取り図がまず欲しい、と手に取った本。蓼食う本の虫さんでも記事を書かせてもらいました。本そのものの感想は以下の記事にて。

とても抽象的な話になるのですが、文学に限らず映像音楽写真インターネットなどなんでも、「あ、この人は数字のためにやってるな」とか「そう見せたいからそう言うてるだけやな」とかいう「好きでやってるわけじゃない」というのを見抜く目がいまの人々はとても肥えていると思っていて。なので対象への愛がこの先もっと大きな意味を持つようになるのではないかと感じています。自分だけで愛するならそのままでいいけど、自分以外の誰かに差し出すとなるとき、いかに好きなものそのものをねじ曲げず、差し出す相手をみくびらず、一般に落とし込むということが大切になるのかなと。本書ではそれが達成されていて、そういう意味でもとても面白い本でした。もちろん両氏はそんな小手先など意識せず純粋に愛すべき文学について語られているのですが、そこに到達するためには沢山の知識と対人の経験が必要で。そういうものをコツコツ積み上げていくことも大切だな〜と思うなどしました。


4.阿野冠『君だけに愛を』

京都という観点で見たら今年読んだものでは小説実用ひっくるめてこれがいちばん面白かったし、見つけたったで!と周りに言いふらしたくなる本でした(いうて私は百合文壇バーさんのツイートで知ったのですが)。まじで京都好きな人はこれ読んでくれと思い、京都インスタで紹介したけど誰も読んでくれない!笑!

昭和の西陣を舞台にした女子中学生のお話なのですが、公園に来る紙芝居屋が東映の役者さんで、彼が住んでいる集合住宅は元は五番町で働く女たちが住んでいたところ……などなどディテールがかなり凝っています。というのも著者が祖母に聞いた話を物語に仕立てたとあとがきにあり。一応小説の形をとっているのですがもろにオーラルヒストリーという感じです。設定や情景だけでなく、主人公の家族の中の立ち位置とそこで抱く諦めや、置屋に住まう同級生に向ける複雑な感情までとにかく細かく、生き生きと描かれていて面白かったです。


5.伴名練『なめらかな世界と、その敵』

やっと借りれた(多分1年ぐらい待ったのでは)。SFは未知の分野で、自分に理解し得るだろうか……と思っていたのですが、読後には親しみというか、ああ好きだなあという、なんとも幸せな感覚を覚えました。それはきっと氏のSF愛が伝わってきたせいもあるでしょうし、おーじさんの以下のツイートにもあるように、膨大な知識を背景にした設定とか緻密な構成とかを用いて社会批判で閉じても全然構わないのに「普遍的かつ何よりも力強い脚本」で「あなた」に対する希望を描ききっている(百合としてもこういうのすごく好みなのです)ところにあるのかなと思います。

あとSFマガジン百合特集で嵯峨さんが触れられているとおり、少女小説への目配りが感じられたのも親しみを覚えた理由の一つかなと思います(「ゼロ年代の臨界点」がいちばん好みでした)。今後も追っていきたい作家さんです。


6.嵯峨景子『大人だって読みたい!少女小説ガイド』

草創期から現在に至るまでの少女小説がジャンル別にまとめてあります。ずっと手元に置いておきたい本ですね(乙女棚にささっています)。冒頭インタビューでは少女小説黄金期をつくってた頃の出版界隈の状況がかなりリアルに語られていました。「ベトナム戦争からの帰還兵」など例えが秀逸なのだけど笑えないぐらい過酷でまさしく帰還兵の手記を読んでいるようでした。あとコイケジュンコさんの花井愛子評がめちゃ面白かったです。


7.梨木香歩『家守綺譚 』

梨木さんのすっきりとして丹念な文章好きだ〜。それが電灯のない時代の雰囲気とマッチしてて、生きてたはずのない頃のことなのに懐かしい気持ちになり本を閉じるとき寂しかったです。がっつり怪奇じゃなくちょっと妖しくとぼけた感じも好みでした。


《京都編》

難波里奈『純喫茶とあまいもの 京都編』

「純喫茶とあまいもの」を読んで、純喫茶は歴史であり物語であり思想であり、総合芸術だなあとあらためて。そんな純喫茶と私たちをあくまでこちら側に立って橋渡しする難波さんの語り口が愛とやさしさに溢れていて、読んでてほっとした カウンターでマスターや常連客の話を聞いてる気分になりました。マニアや愛好家にみられる嫌らし仕草みたいなのが一切なくて、安心して読めたし癒された〜。とてつもなく喫茶店に行きたくなりました。


《漫画編》

高野ひと深『私の少年』

読む前は雰囲気で中学聖日記と似ているのかなと思ってたけれど(安直)正反対でしたね……。前者が「好き」に対して起こる外からのあれこれに二人で立ち向かっていくのに対して後者は「好き」だけどその「好き」がなんなのか内に潜って各々の抱える問題を考えていくという。「好き」を「好き」で終わらせない、解決しないことが解決、主題は年の差でなく恋そのものに対するカウンター、というのがというのがすごく今っぽかったです。この二つが同時に流行るの面白いなあ。


《雑誌編》

BRUTUS(ブルータス) 2021年 1月15日号 No.930[世の中が変わるときに読む本]

脱資本主義、反出生主義、アメリカ論などなど、トレンドなトピックの一線にいる方のインタビューと推薦図書がまとめてあり今の時代を俯瞰できてとても良かった。久々に雑誌を隅々まで読んだかも。かなり読みごたえがありました。個人的に養老氏と中村氏の読書歴が時代史のようで面白かったです。


先の記事で書いた通り、今年は手当たり次第に本を読んで、散漫になったなあと思っていたのですが、なんだかんだで小説実用ひっくるめて京都関連のものが多めだったように思います。もう染みついているのかもしれません。今まで読んできたものすべてを振り返ったことはないので、来年は京都関連のブックリスト作りたいですね。ブクログにちまちまタグ付けしていこうと思っています。あと今年は文芸や創作関連の本も多く手に取ったと思います。

来年は目についたものも読みつつ、テーマに沿っても読んでいきたいので千野帽子さんの著書を参考に少女関連の作品を読んでいきたいと思っています。あと大正アンソロに参加させていただくことになり大正が舞台の作品のブックリストを作っていただいたのでそれも読んでいきたいです。京都が舞台のものも引き続き探して読んでいきたいですね。見つけたらご一報ください。

0コメント

  • 1000 / 1000