須藤佑実『夢の端々』

「夢の端々」読み終える。

“苦しいことも悲しいこともあったけど遠くから見てみれば淡くて透明な…青い山脈のようなものよ。もっと遠くから見れば空気に溶けて見えなくなる”

最後に出てくるこのフレーズに泣いてしまった。これは他者が少女に向ける視線でもあるし、かつて少女だったものが自身の少女時代に向ける視線でもある。物語は現在から過去に向かって進んでいくのだけれど、最初に現在と過去の落差が提示された後、過去が現在においてどれだけの価値を持っているのか読者はじわじわと知っていくことになる。そして最後に上記のフレーズである。泣いてしまう。一方でいつどこでこれは夢ですと言われてもおかしくないような浮遊感もあり。あと貴代子さんはなんだか志村作品に出てきそうだと思った。

「みやこ美人夜話」でも思ったけれど、須藤さんの描く女性って舞妓さんや昭和の女学生などなど自分自身と環境が全然違うのに、ああその感覚分かるなあと自身に重ねられる部分もあれば、舞妓さんや女学生ならではの感覚をリアルに見せてくれる(実際にそうかは別にして、そう思わせてくれる)部分もあり、そこが共存しているのが面白いなと思う。好きだなあ。


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