島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』

大きな資本が小さなものの息を止める、大衆に寄せるか自分のやりたい方向で行くか。なんて現実はそんなに単純ではない。島田さんというひとりの人の目を通すから見えてくる、二項対立では捉えられない仕事をめぐる物事たち。

読み終えた後、大きな世界の目線で小さい世界を捉えていた自分に気づく。『本屋さんしか行きたいとこがない』でも仰っていた「大きな世界ではやっていけなくても小さな世界ではやっていける、悲観することはない」という言葉に、ああそうだよなあ、もっと早くこの本を読みたかったなあと思う。「小さな世界は大きな世界に支えられている」という言葉も印象的。世の中にはいろんな社会があり、それらはただ社会として存在し機能しているだけで、対立することもあるが支え合うこともある。その中でみんな自分の持ち分をつくり、守りながら、過ごしているのだ。

私は小説を書くとき、新しいものを次々と作らなければいけない。そしてすぐに売り切らねばならないと勝手に思っていた。その一方で、読み手を変えても長く読まれてくれたら嬉しいと思っていた。けれども自分がそういう考え方で作ったものが、長く読まれるわけはないのだ。長い時間をかけて作り、長い時間をかけて売る。そして読者の手に渡った後、長い時間に耐えられるものを作ろうと思った。もっと、具体的な、個人的なものづくりをしたい。

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