村上雅郁『りぼんちゃん』

良い小説としか形容できないのが悲しくなるぐらい、ほんとに良い小説だった。理緒を分かりたい、守りたいという朱理の切実で誠実な言動に後半からずっと泣いていた。言葉(物語と対話)の力を信じるという一貫した姿勢にも心を揺さぶられっぱなしだった。心にとめておきたいフレーズが数ページおきにでてきて付箋だらけになった。最初は、作者さんは少女小説(戦前)をお読みなのかなとか、「静謐」って放浪息子にも出てきたなあ(かなり印象的で大好きなシーン)とか最初のうちは考えてたんだけど、読んでるうちにそんなのどうでもよくなった。久しぶりに、構成とかキャラとか、背景とか共通点とか、周辺に考えが至らないまま、劇中に没入して読んだ小説だった。そういう作品が自分にとっては間違いなくいい作品だ。再読してそういう周辺を読んでいく楽しみが残されているのも嬉しい。今年読んだ小説の中のベスト10に入ると思う。幸福な読書体験だった。

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